専門相談室による手厚いフォローで生活改善の重要性を伝える——松愛会松田病院(静岡県浜松市)
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大腸肛門病を中心に消化器疾患を幅広く診療する医療法人社団松愛会松田病院。大腸肛門病センターとしての役割を果たし、静岡県内はもとより、全国各地から患者様が訪れる専門施設です。同院では、2016年から腸内フローラ相談室を設置して、より良い腸内環境づくりに向けた生活改善指導を行っています。今回は、副院長・診療部長の川上和彦先生に、腸内フローラ相談室が果たす役割やマイキンソー活用方法、腸内細菌の重要性などについて伺いました。
課題
腸内細菌への意識を高め、全身の健康管理につながる施策を構想していた。
実施例
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2016年の「腸内フローラ相談室」開設と同時期にマイキンソーを導入。
結果
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・患者様とのコミュニケーション円滑化。・患者様の生活改善への理解が深まる。・健康の変化を可視化できることで、リピート検査希望者が増加。
腸内細菌の状態を正しく検査できる点を評価
はじめに御院の特徴についてお聞かせください。
松田病院は、胃腸肛門病の専門施設として、幅広い消化器疾患の診療を行っています。当院の診療の柱は、胃腸疾患、肛門病、大腸がん・大腸ポリープ、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)、各種ヘルニア、便秘症・排便障害です。これに加え、内科、女性専門外来、リンパ浮腫外来などの専門外来も提供しており、多岐にわたる疾患に対応しています。 また、大腸がん検診、ピロリ検診、消化器ドックなどの予防プログラムも提供し、定期的な検診や健康管理を通じて、疾患の早期発見と予防に努めています。 その一環として、2016年には「腸内フローラ相談室」を開設。マイキンソーなどの検査を活用しながら患者さんの腸内環境をチェックして、改善が必要な場合には食事や運動などの指導をはじめ、腸内環境づくりのためのアドバイスを行ってきました。
腸内フローラ相談室の開設と同時期にマイキンソー導入を決定されたそうですね。導入にはどういった背景があったのですか?
実は私自身、過去に食事を見直すことで、幼少期から悩んでいたお通じの状態が改善した経験があります。そのため以前から、腸内細菌と消化器病との関連性に興味を持っていました。当院は、お通じの良くない患者さんが多く訪れる病院ですから、皆さんにも腸内細菌へもっと意識を向けてもらいたいと思っていたのです。 加えて、2015年にNHKの番組で腸内フローラが特集され反響を呼ぶなど、当時は社会一般にも腸内細菌が注目され始めていました。腸内細菌は、これまで分からなかった病気の原因の解明や、新たな治療法につながる可能性がある。それが広く認知されるようになったというわけです。 例えば、腸の病気や生活習慣病だけでなく、花粉症やぜんそくなどのアレルギー性疾患、うつ病などの精神疾患も含め、全身のあらゆる病気に腸内細菌が関わっていると言われています。そこでマイキンソーの検査を活用して、腸内細菌の状態を把握できれば、全身の健康管理に役立つのではないかと考えました。
具体的には、マイキンソーのどういった点を評価されたのでしょうか。
「あなたはB判定です」「C判定です」と検査結果レポートで示されると、患者さんがご自身の腸内細菌バランスをよりイメージしやすくなります。実際に、それが生活習慣改善のモチベーションにつながる患者さんが多くいらっしゃいます。 また、腸内細菌の検査はこれまで、保険診療の範囲内で主に培養法という検査が行われてきました。しかし培養法は、検体の便を提出した時点で死んでしまう菌があったり、培地によって増える菌と増えない菌があったりするなど、必ずしも患者さんの腸内細菌の状態に一致した検査結果になるわけではありません。 一方で、マイキンソーはDNA解析によって腸内細菌の種類や割合が分かるため、死んだ菌でもカウントでき、培養による菌の増減もありません。まさに検体を検査した結果が、その患者さんのお腹の状況であることがわかる。つまり、腸内細菌の状態をより正確に把握できるのです。そうした検査が、保険診療の範囲外でも可能になったのは、大きな変化だと思います。 腸内細菌の分野は、まだまだ研究段階にあり、今後も新しい発見が次々と生まれるでしょう。それに伴い、検査方法や検査結果の提供方法も変化していくと予想されます。マイキンソーには、新しい知見にもフレキシブルに対応して、ますます新しい検査を開拓してくれそうなバイタリティーを感じますね。
検査結果を生活改善の契機として活用
腸内フローラ相談室は、どのような思いから開設されたのですか?
当院では以前から、食事の重要性を患者さんにお伝えしてきました。大腸がんを含む多くのがんは生活習慣病とされ、食事がその主な一因と考えられています。また、過敏性腸症候群やクローン病、潰瘍性大腸炎の患者さんには、食生活のアドバイス提供により、少しでも症状の改善につながればという思いがあります。 例えば、過敏性腸症候群の患者さんには、子どもの頃から下痢症や便秘症に苦しんできた方がたくさんいらっしゃいます。「体質だから仕方がない」と放置している方も多く、過敏性腸症候群と診断名がついても、使われるお薬といえば便秘薬や下痢止めばかり。そうしたお薬は対症療法であって、根本的な治療ではないのです。 根本的な治療につなげるためには、何よりもまず腸内細菌を改善するべきだと考えています。それには、食事や運動といった生活習慣を改めるのが最善です。腸内細菌や生活習慣のアドバイスを通じて、少しでも症状改善に向かっていただきたいという思いから、腸内フローラ相談室を開設しました。
腸内フローラ相談室ではどういった指導をされているのでしょうか。
まず患者さんの排便習慣や食生活習慣をヒアリングし、腸内細菌バランスの改善に向けたアドバイスを行います。具体的には、主に3つのノウハウをお伝えしています。 1つ目は、良い腸内細菌を「呼び込む」。2つ目は、腸内細菌を元気に「育てる」。3つ目は、腸内細菌と「仲良くする」です。
それぞれのキーワードについて、具体的に教えてください。
良い腸内細菌を「呼び込む」というのは、いわゆるプロバイオティクスです。薬剤やサプリメントに頼り切りになるのではなく、多くの発酵食品を摂取するなどの食事療法をうまく活用して、善玉菌を効率よく取り入れようということです。 次に、腸内細菌を元気に「育てる」ためには、食物繊維を多く含む食事を心がけることが大切です。腸内細菌は、食物繊維をエサにして生命をつないでいます。腸内細菌が元気に増えることで、人間の健康に役立つさまざまな物質がつくられます。しかし、食物繊維が少ないと腸内細菌が元気にならず、お腹の中で増えることができないのです。ですから、1日に18gから20gの食物繊維を取るように勧めています。
食物繊維を効率的に摂取できる食材はありますか?
葉物や根菜といった季節の野菜をバランスよく取るのがおすすめですね。加熱調理をすれば、量もたくさん食べやすくなります。また、野沢菜やすぐきの漬物、ぬか漬けなどの発酵食品は、乳酸菌を含めたさまざまな善玉菌が入っており、食物繊維も同時に取れます。 善玉菌が入っている食材をプロバイオティクスといい、腸内細菌が喜ぶ食物繊維をプレバイオティクスといいます。その両方を併せ持つものがシンバイオティクスです。ぜひシンバイオティクスである日本古来のお漬物を、積極的に取っていただきたいですね。
食生活の大切さがよく分かりました。3つ目の腸内細菌と「仲良くする」についてもお聞かせください。
実はこれまで、私たちは腸内細菌と仲良くするどころか、意地悪をしてきたのです。どういうことかというと、1つは抗生剤や除菌剤の乱用です。例えば、軽い風邪でも感冒薬に加えて抗生剤が処方され、それが腸内の善玉菌まで殺している可能性があります。実際に、抗生剤を飲んだ後に下痢をするケースが多いのですが、それは腸内細菌のバランスが崩れるから下痢をするわけです。 さらにもう1つ、食品に添加物として含まれる防腐剤や酸化防止剤なども、腸内環境にとっては好ましいものではありません。防腐剤や酸化防止剤を多く取ると、腸内細菌が生きにくい腸内環境になってしまうのです。人間の健康を直接的に害するものではないものの、腸内細菌にとっては死活問題です。こうした習慣を改めて、腸内細菌のバランスを整えようというのが、腸内細菌と「仲良くする」ことです。
そうした指導によって、患者様にどのような変化がありましたか?
患者さんの中には、食事と運動を改善するだけで病気の症状が良くなった方や、お薬を減らせた方がいらっしゃいます。生活習慣の大切さをご家族に話して、皆で健康を維持できているという話も聞きました。 やはり一番大事なのは、腸内細菌の大切さと、食事や生活習慣の管理の重要性を患者さんに自覚してもらうことです。そのきっかけの一つが、マイキンソーの検査だと思います。 マイキンソーは、食事や運動に気をつけた結果、腸内環境がどう変わったのかを可視化できる点が非常にいいですね。検査結果によって腸内環境が可視化されることで、患者さんとのコミュニケーションが取りやすくなり、理解も深まりやすくなったと感じています。食事や栄養のアドバイスを実践してくださった患者さんが、ご自身の腸内環境の変化を知るために、2回目の腸内フローラ検査を受けるケースも多いです。
今後は新たな検査テーマへの発展にも期待
腸内フローラ相談室での指導が、検査のリピートにつながっているのですね。今後、マイキンソーに期待することはありますか?
食事や運動の改善方法、場合によっては、その人にあった薬剤の種類などが具体的に示されるようになると、より分かりやすく、モチベーションにもつながりやすいと思います。ただ、腸内細菌はまだ解明されていないことが多く、新しい研究結果によって定説が覆ることも珍しくありませんので、アドバイスにどう具体性をもたせていくかは、今後も継続して取り組むべき課題でしょう。 マイキンソーの研究がより進んでくれば、腸内細菌だけでなく、口腔内細菌の検査にも期待したいですね。例えば、歯周病の原因菌として知られる「フソバクテリウム・ヌクレアタム」という口腔内常在菌は、大腸がんにも関与している可能性があることが分かってきました。つまり、口腔内細菌も全身のさまざまな病気に関係しているというわけです。 これは皮膚常在菌にも同じことが言えます。皮膚の病気やトラブルを抱えている方に向けた検査など、幅広く応用できるのではないでしょうか。
新たな検査テーマの発展にも大きな期待が持てるのですね。最後に、腸内細菌の改善を通じて、今後どういったことを実現されたいか、お考えをお聞かせください。
現在の日本において私が危惧するのは、高騰する医療費です。国家予算を破綻させるほどの医療費高騰を、どうにかして止めなければなりません。皆さんが腸内細菌に意識を向けて、病気を予防してお薬が減らせたら、少しは医療費の削減につながるのではないかと思います。 特に、大人になってから引き起こされる生活習慣病は、ほとんどが食事、運動、ストレスの3つを改善することで予防でき、過剰なお薬がいらなくなる可能性があります。ですから今後も、皆さんに腸内細菌への興味を持っていただけるような情報発信を続け、生活習慣を改善するきっかけとして、マイキンソーを役立てたいと考えています。
名称
医療法人社団松愛会松田病院
所在地
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静岡県浜松市西区入野町753
電話
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053-448-5121
WEBサイト
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https://matsuda-hp.or.jp