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ウルトラトレイルランナー宮﨑喜美乃選手に学ぶ「世界一を目指すコンディショニング術」

ウルトラトレイルランナー宮﨑喜美乃選手に学ぶ「世界一を目指すコンディショニング術」

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山岳地帯を走るトレイルランニングの中でも、100マイル(約160km)という長距離に挑む過酷な競技が「ウルトラトレイルランニング」です。フルマラソン4回分以上の距離を数十時間かけて走り抜けるには、強靭な精神力と持久力が求められるだけでなく、レース中の栄養補給も攻略の重要なポイント。そのため胃腸のコンディションがパフォーマンスに影響を与えやすいといわれています。
今回お話をうかがったウルトラトレイルランナーの宮﨑喜美乃選手は、2023年の『Istria 100 by UTMB』の優勝をはじめ、数々の大会で好成績を残してきた日本のトレイル界を牽引する選手の一人。アンバサダー契約を結ぶサイキンソーは、腸内フローラ検査を通じて活動を支援しています。日本人初の世界トップを目指す宮﨑選手は、日々のコンディショニングにどう取り組んでいるのでしょうか。第一線で活躍するアスリートの“コンディショニング術”に迫ります。

不調の原因はトレーニング不足ではなく、内臓だった

さっそくですが、普段のコンディショニングではどういったことに気をつけていますか?

まず、食事はとても大切にしています。それは内臓のケアの重要性に気づいたから。実は以前まで、レース中100kmを過ぎたあたりから吐き気やめまいで食べられず、エネルギーが補給できなくなって、なかなかパフォーマンスが上がらないことが多かったんです。それを最も痛感したのは、2022年の8月に出場した『UTMB(Ultra Trail du Mont-Blanc)』という100マイルレースです。

160kmの距離を長時間かけて走ると、主に運動に使われる筋肉に血液が送られ、内臓を動かす筋肉の活動は優先順位が下がってしまいます。すると内臓がうまく働かず、食べても消化できずに吐いてしまったり、気分が悪くて食べられなくなったりしてしまうんですね。レース中もきちんと食べられなければパワーが出ませんし、気温の低い山頂付近では体温を保つことができず、さらにパフォーマンスが下がってしまいます。

ちょうどそのレース直後に、体のケアをしてくださった現地の先生から「体は全然疲れていないようだから、内臓のケアをしなさい」と言われました。それまで、パフォーマンスが上がらないのはトレーニングが足りないからだとばかり思っていたので、まさに目からうろこが落ちたような気持ちでしたね。

それからお酒をやめて、植物性の食品を中心にした食生活に変えていったら、食べて走れるようになったんです。レースだけでなく、体が疲労してしまうと普段の練習も十分に積めませんから、日々のコンディショニングはとても大事ですね。

内臓のケアには食生活の見直しが大切なのですね。
食品選びや調理方法での工夫を教えてください。

運動する上ではタンパク質が必要なので、大豆製品をたくさん摂るようにしています。野菜はビーツを好んで食べますね。ビーツは持久系のアスリートに良いとされる栄養が豊富なので、サラダに入れたり、パウダー状のビーツをヨーグルトに混ぜたりして、普段から積極的に取り入れています。食物繊維は消化に負荷がかかりやすいので、レース直前は、例えば玉ねぎも繊維を切るようにカットするなど、調理方法にも気をつけています。
食生活全体で大切しているのは「何を食べるか」より「どう作られているか」という考え方です。例えば野菜では、有機的な土作りをされた畑で、その土の酵素をたくさん取り込んだ野菜を選ぶなど、食べ物がどこでどのように作られたかを意識するようにしています。

食事のほかに意識していることはありますか?

筋肉もそうですが、内臓が一番休まるのは寝てる時なんですよね。ですから、睡眠の質を上げることが重要です。私は普段からウェアラブルデバイスで睡眠の測定をして、交感神経と副交感神経の働きのバランスをチェックしています。交感神経が活発になると睡眠の質が上がらないので、バランスが良くないときは睡眠時間によるものなのか、前日の運動や食事によるものなのか、あるいはメンタルの影響なのか、測定結果を自己分析して改善を心掛けています。

測定を重ねて分かったのは、合計8時間の睡眠を確保するために、睡眠時間をどのように積み重ねていくかが一番大事ということ。100マイルレースでは、山中を早朝や夜中に走ることもよくあります。そうした状況で睡眠時間はシンプルに回復に影響するため、いつ寝ても構わないので合計8時間は体を横にするように、日常生活から心掛けているんです。例えば、夜に6時間寝たとしたら、足りない2時間を昼寝で補うといった形ですね。

レースを楽しめるマインドに変化。無心になるために瞑想も

   

直近では、2023年4月にクロアチアで開催された『Istria 100 by UTMB』で優勝を果たされました。おめでとうございます。結果を受けていかがですか?

幸運にも優勝はできましたが、レース終盤になって食べられなくなり、エネルギー切れになってしまったんです。だから内容としては、めちゃくちゃ失敗で(笑)。ただいつもと違ったのは、レース前に「楽しみだな」と思えたこと。これまでは「チャレンジして失敗したらどうしよう」という気持ちになることもありましたが、今回は「失敗するために来ているんだから大丈夫」というマインドで臨めました。

クロアチアのレースの目的の一つは、先頭集団に着いていくためにスタートからスピードに乗るレース展開をテストすることでした。結果としては着いていけませんでしたが、自分と世界とのギャップを再認識できましたし、戦略的にも最初から先頭集団に着いていくのがベストなのか、今までどおり後半にペースを上げたほうがいいのか、次のレースにつながるヒントを得られました。

そういったチャレンジを楽しめるマインドをレース前から作れると、結果が良くても悪くても、満足できるレース展開になるのではないかと思っています。

マインド面では、どういったコンディショニングを行っているのでしょうか。

2022年のUTMBは、プレッシャーに負けてしまった部分も大きくて。そういうメンタルは、内臓にも影響を与えます。ですので、レース前の準備期間には、今回のクロアチアであれば教会など、その土地ならではの名所旧跡を訪れて、リラックスできる時間を作るようにしています。

さらに2022年8月から、コンディショニングに瞑想を入れました。瞑想をすると副交感神経が優位になるといわれています。レース前に高まった交感神経を抑え込んで、副交感神経を優位にするようにコントラストをうまく付けられれば、いい調子を作っていけることがわかりました。

これはクロアチアのレースにも活かされています。体力的に160kmを走りきる自信はありますが、どれだけ速く走れるかは、心の中でどう自分自身をプッシュするかにかかっています。そのためには、雑念を一旦置いて無心になることが大事。それを瞑想を通じて学びました。普段から就寝前などに、雑念を少し置いて心を静めることを繰り返しています。

自分で感じる体の状態と腸内細菌の状態とのギャップに驚いた

宮﨑選手が腸内フローラ検査に出会ったきっかけを教えてください。

もともと医療機関では腸内細菌の状態を検査できることを知っていました。でもそれが一般的にできるものだとは知らなくて。サイキンソーさんとは、スポーツ系メディアのインタビューを通して知り合い、私から「ぜひ検査を受けたい」とお声がけしたんです。おなかの状態がパフォーマンスに直結することは分かっていましたので、とても興味がありました。

これまで10回ほど検査されていますが、検査結果からどういった気付きがありましたか?

自分の体感と実際の体内の状態は、本当にリンクしていないものなんだなと、あらためて実感しました。体がうまく回復できていると感じたレース後に検査してみたら、意外にも腸内細菌のバランスが良くなかったり、レース前の状態に戻っていると思っても、検査データではまだまだ全然戻っていなかったり。むしろ悪いままだったということに、とても驚きましたね。2022年のUTMBは、それが顕著に表れた大会でした。レース後は「すぐにトレーニングしなきゃ」と思っていましたが、やっぱり体を休める必要があることが、腸内細菌のデータからも分かったんです。

具体的にはデータのどういった部分を注視されているのでしょうか。

今はレースの前後に検査をすることで、レース後の体の状態がレース前と同じように戻っているかどうかを見ています。どの菌が多くて、どの菌が少ないのか、変化のあった菌を特定して、その菌がどういう働きをする菌なのかがわかれば、例えば「もっと乳酸菌系を摂取しよう」など食事の改善に役立ちますから。サイキンソーさんからは、腸内細菌のバランスを整えるために、普段からどういう食生活をすればいいのか、仮説を基にしたアドバイスもありました。

実際、2022年のUTMBの後は、腸内細菌の多様性を評価する指標が下がっていましたが、2023年に準優勝したニュージーランドの大会では、レース前後で大きなギャップはなく高い状態を保てていました。この状態を理想として、2023シーズンを通していい状態でレースに臨みたいと思っています。腸内フローラ検査は、体の状態を数値として可視化してくれるため、コンディショニングにとても役立っています。

腸内フローラ検査をどう活用したいとお考えですか?

検査データが蓄積してくれば、時系列的なデータ解析によって、将来の状態を予測できるようになるかもしれません。例えば、数カ月後に目指す菌の状態になるには、どういう生活を続けるべきかなどが分かるといいですね。シーズンごとの違いに着目した具体的な腸内細菌の動きの分析から、その先のパフォーマンスアップにつなげられればいいなと思っています。

また、私だけでなく、多くの人にとって腸内フローラ検査が健康的に体を使うきっかけになればいいですね。トレーニングは「何kgを持ち上げた」「何分で完走した」と目に見える形で結果が出ますが、食事についても体の状態が目で見えれば、健康的な食生活に取り組む意識が高まるかもしれません。そうした健康的な生活につながる取り組みを、サイキンソーさんと一緒にできればうれしいです。

 

世界有数のハードなレースに向けてチャレンジを継続

今後のコンディショニングで取り組みたいことはありますか?

便秘がちな体質を改善していきたいです。実際に、腸内フローラ検査のデータでも便秘に関する菌の数値が高く出ているんです。便の状態を常にチェックして腸活日誌をつけ、検査データに照らし合わせて腸内の傾向を把握できれば、よりリアルタイムに自分の体の状態を知ることができると思っています。

食事面では今、自家製のコンブチャや漬物といった発酵食品を積極的に取り入れています。発酵食品の摂取量を増やすことで、自身のコンディションがどのように変化するか楽しみですね。

7月には宮﨑選手が2023年のメインレースに定めた『Hardrock 100』があります。意気込みをお聞かせください。

『Hardrock 100』は、平均標高3500m、最高標高4300mという世界でもっともハードな山岳100マイルレースの一つです。他のレースと比べて、ずっと標高の高い場所を走るため、酸素が少ない分、内臓の負担も大きくなります。そのためコンディションを崩しやすく、今まで以上に内臓のケアをして、体を低酸素に慣らしていかないと結果を出せません。疲労感も変わってくると思うので、万全の調整をして挑みたいですね。しかも、このレースには世界で一番強いランナーが参戦するんですよ。世界の強豪に対して、どこまで自分のレースができるのか挑戦したいと思います。

また、私は低酸素トレーナーとしても活動していますが、このレースは専門的な知識と実践をリンクさせるいい機会だと捉えています。低酸素環境下において、どう自分のパフォーマンスを出せるのか、とても興味があります。低酸素トレーニングの効果は、自分の基礎的な土台を固めることにもつながるため、このレースにフォーカスしたトレーニングを積み、運動の変化を観察する予定です。

さらに、9月はまたフランスのUTMBに出場予定です。昨年と同じコースで、どのように体の状態を変えて攻略していけるのか、今からとても楽しみにしています。

コンディショニングには、食事や睡眠など体の内面からのケアが大切であることがよく分かりました。ご活躍を期待しています!