脳腸相関とは?脳と腸が相互作用するメカニズムを解説【管理栄養士監修】
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脳腸相関という言葉をご存知でしょうか?緊張しているとどうしてもトイレに行きたくなる。ストレスを感じているとお腹が痛くなる、など、精神(脳)状態とおなか(腸)の状態が密接に関係していることを「脳腸相関」と呼びます。腸内フローラが、精神状態やストレス、うつ病などにも関係していることが明らかになりつつあります。この記事では、脳腸相関のメカニズムや腸内フローラとの関わりについて解説いたします。
・脳と腸は密接に繋がり、相互に様々な影響を与えている。 ・腸内細菌叢はメンタルヘルスにも影響を与えており、精神疾患との関連も報告されている。 ・腸のセロトニン産生には腸内細菌が関与しており、心と体の健康を支えている。
脳と腸が相互作用する「脳腸相関」のメカニズム
脳と腸は自律神経を介して、相互に情報を送り合っています。また、栄養素や腸内細菌の代謝物、腸で生成されたホルモンなどの情報も、腸管の細胞の働きや血流を介して脳に影響を与えています。このような双方向の通信により、腸の不調が脳に影響を与え、精神的なストレスや不安感を引き起こすことがあります。逆に、精神的なストレスが腸の動きを悪化させ、便秘や下痢といった症状を誘発することもあるのです。脳腸相関の悪循環による機能性疾患として、過敏性腸症候群(IBS)が知られています。
また、腸は脳からの指令がなくても独立して活動することができることから、「第二の脳」とも言われています。「腹を決める」「腹のうち」といった日本語の慣用句にもあるように、以前から腸に意思が宿ると考えられていたのかもしれません。
腸内フローラとメンタルヘルス
腸内細菌と脳は密接に結びついており、その関係性がさまざまな病気に影響を与えることが分かっています。例えば、無菌環境で育てられたマウスでは、精神状態が不安定になることが確認されています※1。さらに、腸内細菌がうつ病やパーキンソン病に関与している可能性も指摘されており、メンタルヘルスに大きな影響を与えています。
研究では、パーキンソン病患者の腸内では短鎖脂肪酸を産生する腸内細菌が少なく、代わりにアッカーマンシア属の菌が増加していることが報告されています※2。これにより腸管のバリア機能が低下し、炎症が生じやすくなるため、病気の進行スピードが速くなると考えられています。一方、うつ病患者では、ビフィズス菌や乳酸菌が健常者に比べて少ないことが多く、これが精神状態に影響を与えている可能性があります。さらに、プロバイオティクス(補菌食材)の摂取により、うつ症状が改善するという研究結果も示されています※3。
腸内細菌のバランスが脳や精神状態に与える影響を理解することで、うつ病やパーキンソン病の予防や治療に新たな可能性が広がるかもしれません。
腸内細菌とセロトニン
腸内細菌は「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンの産生にも関与しており、精神状態の安定に重要な役割を果たしています。腸内にはセロトニンを分泌する特殊な細胞が存在しており、その分泌を刺激するのが腸内細菌の代謝物である短鎖脂肪酸(酪酸、酢酸)や胆汁酸代謝物です。また、腸内細菌の中には、セロトニンだけでなくドーパミンなどの神経伝達物質を作らせる働きを持つものもいることが明らかになっています。
さらに、体内で生成されるセロトニンの90%以上が腸で作られているとされています。腸管内で生成されたセロトニンは、腸の運動機能を調節し蠕動運動を活発化させたり、腸の粘液バリア機能を維持する働きがあります。また、セロトニンが、気分、食欲、睡眠などの調節にも影響を与えている可能性が報告されています※4。このように、腸内細菌とセロトニンの密接な関係は、心と体の健康を支える鍵となっているのです。
まとめ
脳腸相関とは、脳と腸が相互に影響し合うことを言います。腸の状態がストレスや不安に影響を与える一方、精神的なストレスが腸機能の乱れを引き起こすこともあります。さらに、腸内細菌のバランスが精神疾患や神経疾患に関連していることが研究で明らかになってきました。例えば、うつ病患者ではビフィズス菌や乳酸菌が少ないことが多く、プロバイオティクスが症状改善に寄与する可能性も示されています。また、腸内細菌はセロトニンの産生に関与し、心と体の健康を支える鍵を握っています。このように、腸内環境の改善が脳や精神状態の健康維持に重要な役割を果たしているのです。
※1 Sudo, N., Chida, Y., Aiba, Y., Sonoda, J., Oyama, N., Yu, X. N., Kubo, C., & Koga, Y. (2004). Postnatal microbial colonization programs the hypothalamic-pituitary-adrenal system for stress response in mice. The Journal of Physiology, 558(Pt 1), 263–275. https://doi.org/10.1113/jphysiol.2004.063388
※2 Hirayama, M., Ohno, K., Hirayama, M. A., & Ohno, K. (2022). Short chain fatty acids-producing and mucin-degrading intestinal bacteria predict the progression of early Parkinson's disease. NPJ Parkinson's Disease, 8(1), 65. https://doi.org/10.1038/s41531-022-00328-5
※3 功刀浩、「うつ病・自閉症と腸内細菌叢」、腸内細菌学雑誌, 32, 7-13, 2018
※4 O’Mahony, S. M., Clarke, G., Borre, Y., Dinan, T. G., Cryan, J. F. (2015). Serotonin, tryptophan metabolism and the brain-gut-microbiome axis. Behavioural Brain Research, 277, 32–48. https://doi.org/10.1016/j.bbr.2014.07.027