【セミナーレポート】女性ホルモンを味方に!社会で活躍する女性のための、カラダとの対話のススメー腸からのアプローチー
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サイキンソーは2024年5月20日、オンラインセミナー『女性ホルモンを味方に!社会で活躍する女性のための、カラダとの対話のススメ!~腸からのアプローチ~』を開催しました。前半、日本体育大学児童スポーツ教育学部児童スポーツ教育学科教授の須永美歌子先生による講演「女性のための体重管理:月経周期を味方につける」、川崎医療福祉大学医療技術学部健康体育学科准教授の松生香里先生による講演「腸内フローラとコンディショニング:腸内細菌を味方につける」を行っていただき、後半にはサイキンソーが支援するウルトラトレイルランナー宮﨑喜美乃選手も加わりQ&A形式で鼎談が繰り広げられました。本記事では、当日のセミナーの内容とディスカッションの様子をレポートします。
登壇者プロフィール
女性のための体重管理「月経周期を味方につける」
セミナーは女性に特有の「月経周期」の定義や数え方、心身に起こる様々な変化を日本大学の須永先生から説明をいただいた上で、月経周期と体重、脂肪燃焼、食欲の関係について詳しく解説されました。
月経周期を通して女性の心と体は変化する
まずは、女性に特有の「月経周期」について。月経周期を数える際には、月経1日目から次の月経開始日の前日までの日数を数えます。正常月経であれば25~30日に1回、生理がくる計算です。
月経中は、女性ホルモン「エストロゲン」も「プロゲステロン」も濃度が低下します。月経から排卵までの期間にあたる卵胞期後半にはエストロゲンの濃度が高まり、排卵から次の月経日までの期間にあたる黄体期にはエストロゲンもプロゲステロンも濃度が高まります。こうしたホルモン濃度の変化を受けて、女性の多くは月経中と月経前の黄体期にコンディションが悪化しやすくなります。このため、仕事や生活において月経周期を理解しておくことが重要です。排卵に向けて濃度が高まるエストロゲンには抗酸化作用があり、細胞膜の安定化に寄与したり、運動誘発性筋損傷の抑制や炎症反応の調整をしたりすることが分かっています。アスリートの方々は、月経周期を把握して、力を発揮しやすい卵胞期後半にトレーニング頻度を増やしてみてはいかがでしょうか。
月経周期は体重にも影響します。女性は男性と比べて、1カ月間の体重変化が大きい傾向にあります。月経前に体重が最も増加しやすいのですが、その原因は、脂肪増加ではなく水分貯留の可能性が高いです。水分貯留で体重が増えている場合は、月経後には体重が減っていきます。体が水分を貯め込むので、月経前は胸部、腹部、顔、大腿部のむくみも起こりやすくなります。
月経前の体重増加やむくみを緩和するには、インスタント食品、漬物、ハム、ソーセージ、練り製品といったナトリウムの多い食品を避け、ホウレンソウ、人参、バナナ、イモ類、大豆、昆布といったカリウムを多く含む食品を摂ると良いでしょう。
月経前は脂肪燃焼しやすく食欲も増す時期
エストロゲンは、筋肉が収縮する際の脂肪利用を促進させる働きがあります。このため、男性よりもエストロゲン濃度が高い女性のほうが、脂肪を燃焼しやすいと言われています。脂肪燃焼に有効な運動は、有酸素運動、ウォーキング、スイミング、サイクリング、エアロビクスダンスなど、最大心拍数の60%ほどの「ややきつい」強度の運動。これを1日30~60分(1回あたり10分以上)、週に3~5回行うと良いでしょう。こうした運動によって最も脂肪が燃焼しやすい時期は、エストロゲン濃度の高まる卵胞期後半や黄体期と考えられています。
黄体期は食欲が増す時期でもあります。月経前には安静時代謝が増加するため、じっとしていても必要なエネルギー量が増加します。研究結果では、月経中に比べて月経前にグレリン(食欲増加ホルモン)が増加し、「よく食べる」ことが示されています。
月経前の食欲を抑える方法として、「よく噛んで食べること」が挙げられます。一口で30回以上咀嚼すると、CYY(食欲抑制ホルモン)が大幅に上昇し、グレリン(食欲増加ホルモン)が抑制されるという研究報告があります。
このように、月経前の黄体期は脂肪が燃えやすい時期であると同時に、食欲も増加しやすい時期です。できれば週に1回体重測定を行い、月経周期が体重増減に及ぼす影響を把握した上で、有酸素運動を取り入れたり食事や咀嚼回数を意識したりすることで、体重と食欲をコントロールしてみてください。体重も食欲も、月経周期とともに変化するものです。月経前に増加しても焦ることなく、「月経後には下がるから大丈夫」という心持ちで体重コントロールに励むと良いでしょう。
腸内フローラとコンディショニング 腸内細菌を味方につける!
続いて、松生先生は、腸内細菌が“喜ぶ”食べ物、体調管理と腸内フローラ、紫外線対策と腸内フローラについて解説されました。
腸内細菌が“喜ぶ”食べ物って?
腸内フローラ(腸内細菌叢)は、食習慣や環境に適応しながら変化します。年齢によっても変化し、加齢に伴い悪玉菌が増えたりビフィズス菌のような善玉菌が減ったりといった現象も起こります。アスリートの腸内細菌叢を見ると、種類が豊富で機能も多様であることが分かります。
腸内細菌が“喜ぶ”食べ物とはすなわち、腸内の善玉菌の餌になる食物です。腸内細菌が食物繊維やオリゴ糖を発酵することで生成される、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの短鎖脂肪酸は、「消化・吸収を促進する」「エネルギー源を作る」「炎症を抑える」「免疫系をととのえる」「代謝を促進する」といった働きがあります。このため、善玉菌を増やすヨーグルトなどの「プロバイオティクス」、善玉菌の働きを促すオリゴ糖や食物繊維が豊富に含まれるきのこ類などの「プレバイオティクス」、これらをバランスよく織り交ぜた「シンバイオティクス」を食生活に採り入れることが、コンディション管理に役立ちます。実際にどの食べ物がどのように腸内細菌叢に作用しているかは未知の部分も残されていますが、日進月歩で研究が進められています。
体調管理と腸内フローラ。ベストコンディションを導くには?
体の中には神経系、免疫系、内分泌系の仕組みがあり、交感神経と副交感神経のバランスによって成り立っています。そして、そのバランスには腸内細菌が深く関わっていることが分かってきました。心身ストレス、暑さ、激しいトレーニングの影響があると、腸管上皮がダメージを受けます。そうすると、水分摂取の調整ができなくなったり、バクテリアが体内に入り込んで稀に下血や感染症などの体調悪化が起こったりすることもあります。
心身のストレスや暑さで腸管上皮と体内の間をバクテリアが行き来し放題になる状況が起こることを「オープンウィンドウ仮説」と呼びます。そのメカニズムはまだ不明な部分もありますが、腸管上皮を保護することでオープンウィンドウ状態を脱し、コンディションを維持できるのではないかと考えられています。
例えば、運動の2時間前にグルタミンを摂取すると腸管上皮の透過性が維持される可能性が高いという研究報告があります。「うまみ成分」でもあるグルタミンは、肉、魚、出汁を使ったみそ汁などに豊富に含まれていますので、サプリメント等もありますが、できるだけ食事から摂取することをすすめています。また、アスリートは、試合前の減量や炭水化物のローディングによる腸の不調、合宿や遠征で環境が変わることによる腸の不調に悩まされることがあります。そんなときは、おかゆを提供したり腹部を温めたりすることで“不腸”を緩和できます。もっとも、一時的な不腸は、腸が新たな環境に適用しようとしている証でもあります。一定期間経過すれば改善しますので、便の状態を観察しながらうまくコントロールしていきましょう。
月経前に心身の不調をきたす月経前症候群(PMS)と腸内細菌にも関連性があります。具体的にどう関係しているかは未知の部分が大きいものの、PMSの症状が出ているときには悪玉菌が増えて酪酸産生菌などの善玉菌が減っていることが分かっています。プレバイオティクスを摂取することで緩和できる可能性もありますので、試してみてください。
腸内細菌は早くて2週間ほどで変化することが報告されています。「腸内細菌が体を制御している」と言っても過言でないくらい、腸内細菌は体と対話しながら共生しています。腸内細菌が存在しているからこそ全身の免疫系が機能していますので、腸内細菌なくして生命は成り立ちません。コンディションを整えるには、腸内フローラを整えなくてはなりません。
腸は「内なる外」、腸と皮膚はつながっている
最後に、紫外線対策と腸内フローラについて。皮膚とつながっている腸は、「内なる外」と表現されます。そして、腸と皮膚には「腸-皮膚相関(Skin-Gut axis)」と呼ばれる相関関係があると言われています。
腸に短鎖脂肪酸などが増えると、腸内細菌が代謝産物を産生し、腸管上皮リンパ球や上皮組織の隙間から血流を通じて免疫細胞が全身に行き渡り、巡り巡って皮膚を守ります。実際に、腸内細菌が喜ぶ食物繊維が豊富な食事をとることでアトピー性皮膚疾患の予防効果があることも分かってきました。腸内細菌叢が喜ぶ食事をとると免疫系の強化につながり、ひいては皮膚にも良い影響を及ぼしているのです。
ウルトラトレイルランナー宮﨑選手が聞く、腸活とコンディショニング
サイキンソーは2023年から、「細菌叢で人々を健康に」をミッションに掲げ、アスリート支援を展開しています。ウルトラトレイルランナーの宮﨑選手への支援もそのひとつです。ウルトラトレイルランは、身体に強い負荷のかかる過酷な競技です。サイキンソーはこれまで、宮﨑選手の腸内フローラ検査を20回近く実施し、その結果をもとに専門の管理栄養士が改善をサポートしています。
(腸内フローラ検査を活用したコンディショニング術について語っていただいたインタビューはこちら:https://mykinso.com/mykinsomedia/136)
そんな宮﨑選手、今回の先生方の講演を受け、次のような疑問がわいたそうです。以下、鼎談形式でお届けします。
宮﨑:
須永先生に伺います。低用量ピルを服用することで、女性ホルモンにどのような変化があるのでしょうか?
須永:
低用量ピルは、少量の女性ホルモンを人工的に体に入れることで、体からエストロゲンやプロゲステロンが出にくい状態を作り出します。これにより、月経周期のホルモン濃度の波が低い位置で一定に維持されます。ホルモン濃度の波に振り回されなくなる一方で、副作用や効き目には個人差があります。
宮﨑:
低用量ピルの服用以外に、月経痛やPMSを緩和する方法はありますか?
須永:
一般的に報告されているPMSを防ぐ方法としては、「カフェインを減らす」「カルシウムを摂取する」「ビタミンB6を摂取する」といったことが挙げられます。もっとも、報告されているケースはあくまで長期間に及ぶ食習慣に基づくものであり、一過性のサプリメントを摂取すれば緩和されるわけではないことに注意が必要です。生理痛緩和の方法としては、温めることで疼痛の閾値が変化したり、血流が改善されたりするので、多少は緩和できるかもしれません。ただ、低用量ピルは特定の受容体と結合して性ホルモンの分泌を抑えるものなので、ターゲットを狙って効果を発揮するという意味では、低用量ピルに頼るものいいのではないかと個人的には思います。
宮﨑:
低用量ピルで女性ホルモンの波が抑えられるのであれば、月経周期に合わせてトレーニングの量や種類を変えることの効果も減るのでしょうか?
須永:
ひとつ言えることは、月経周期は内側から女性ホルモンが分泌されて波ができるのに対して、低用量ピルは外から女性ホルモンを少量入れて波を抑えています。ピルを服用することでトレーニングに影響があるかどうかはまだ研究途上で、ピルの種類によっても影響が異なりそうです。何らかの影響はありそうですが、まだ断言できるほど研究が進んでない状況です。
宮﨑:
体温の上がる黄体期に深部体温を測ると、暑熱環境下でトレーニングしていなくても体温が1℃ほど変わります。それに伴い発汗量も増えるのですが、対処法としては単純に水分補給量を増やすことになるのでしょうか?
須永:
例えば25℃くらいの環境下だと、基礎体温が変わっても生理反応に大きな差は生まれません。しかし、暑熱環境下で運動すると、基礎体温が高い時期には普段より余計に呼吸してしまうなど、全く同じ運動をしていても主観的に感じる辛さや持久性のパフォーマンスが落ちることが確認されています。一方で、「差はない」と結論づけているレビューもあります。なにせ個人差が大きいので、集団を対象にした論文で統計的に「差はない」とされていても、自身の体の状態を見ながら水分補給量を増やす対応は適切だと思います。大事なのは、月経周期を把握した上で、自分がどの時期にどのように変化するのかを知り、自分に合った対策をとることです。
宮﨑:
松生先生の講演中、グルタミンが腸管上皮の保護に役立つというお話がありました。グルタミンは動物性たんぱく質と植物性たんぱく質のどちらから摂取したほうがよいのでしょうか?
松生:
骨格筋の筋肥大には動物性たんぱく質が強く影響するものの、結論としてはバランスよく摂取するのがベストです。摂取する水分量や水の温度も腸内細菌に影響します。ちなみに暑熱環境下では約13℃の水分をとると吸収しやすいという研究報告があります。動物性・植物性のたんぱく質と適切な量と温度の水分摂取をうまくミックスさせると良いですね。
宮﨑:
競技柄、雪山から猛暑の低地へ移動するなど極端な環境変化に身を置くこともあれば、試合前のインタビューをきっかけにお腹を壊してしまうこともあります。“不腸”を緩和するには、食事の量と種類、どちらをより意識すべきでしょうか?
松生:
前提として、日頃から多様性豊かな食事をとることが大事です。日常的に腸内細菌叢の多様性を育む食生活をしておくことで、環境変化に適応しやすい腸を作れるからです。
司会:
宮﨑選手の腸内フローラ検査では、多様性が非常に高いという結果が出ました。
宮﨑:
検査を機に食事を意識し始めました。今では海外に行くときなどは、自分で漬けた漬物を持参することもあります。
宮﨑:
アスリート活動を終えたらコーチング活動も視野に入れています。私が陸上選手として活動していた当時は、男性コーチが生理について聞くことがタブー視されていたようなところもありましたが、コーチの性別や、生理に対する認識に変化はありますか?
須永:
2021年開催の東京オリンピック時に実施された調査では、選手は男女比約半々でしたが女性コーチは約10%に留まっています。女性コーチの割合が少ない要因のひとつには、妊娠・出産を経ても海外遠征に帯同できる環境が整っていない現状があります。生理への理解も不足していて、コーチ側にも選手側にもどこか言いにくい雰囲気があります。
しかし、競技力向上、コンディショニングという観点からは恥ずべきことは何もありませんし、コーチ側も感覚を変えていかなければいけません。女性を指導する以上、生理の知識はつけるべきですし、実際、生理についての知識や理解を深めようとする男性コーチもおられます。一方で、未だに「生理が止まるまで体重を減らした方が良い」「生理が止まって1人前」といった言説は撲滅しきれていない部分もあり、選手から相談されることもあります。
松生:
私も同世代の男性コーチから「生理のことは聞きにくい」という声を耳にすることがあります。女子学生から「プールの授業を生理で休むときに言い出しづらい」という悩みを聞くこともあります。コーチを目指す男子学生に生理周期などについて教育することも重要ですね。宮﨑選手のような方には是非、将来コーチとして活躍してほしいです。
宮﨑:
ありがとうございます。
司会:
それでは、本日のイベントは以上となります。女性ホルモンと腸内フローラ、コンディショニングの関係について、面白いお話を沢山伺うことができました。
本日は、ありがとうございました!