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【セミナーレポート】京都大学の研究者が語る子育て研究の最前線!健康的な心身の基盤をつくる「腸活起点の食育」の重要性①

【セミナーレポート】京都大学の研究者が語る子育て研究の最前線!健康的な心身の基盤をつくる「腸活起点の食育」の重要性①

INDEX

サイキンソーは7月1日、「京都大学の研究者が語る子育て研究の最前線!健康的な心身の基盤をつくる『腸活起点の食育』の重要性」を開催しました。

登壇いただいたのは、京都大学大学院教育学研究科教授であり、文部科学省科学技術・学術審議会委員、こども家庭庁こども家庭審議会臨時委員などを歴任されると、明和先生のもとで研究に携わり、現在は大阪大学大学院医学系研究科 先進融合医学共同研究講座 日本学術振興会PD特別研究員として活躍される松永倫子先生。

本記事では、明和先生の「脳科学×教育×食」についての講演内容のダイジェストをお届けします。

登壇者プロフィール

明和 政子
京都大学大学院教育学研究科 教授
明和 政子(みょうわ まさこ)先生
京都大学大学院教育学研究科博士後期課程修了、博士(教育学)、京都大学霊長類研究所研究員などを経て、現在、京都大学大学院教育学研究科教授、広島大学客員教授、日本学術会議会員、文部科学省科学技術・学術審議会委員、こども家庭庁こども家庭審議会臨時委員。ヒトとヒト以外の霊長類を胎児期から比較し、ヒト特有の脳と心の発達とその進化的基盤を明らかにする「比較認知発達科学」という分野を開拓した。著書に『マスク社会が危ない ―こどもの発達に「毎日マスク」はどう影響するか?』(宝島社)、『ヒトの発達の謎を解くー胎児期から人類の未来まで』(筑摩書房)、『まねが育むヒトの心』(岩波書店)など多数。

次世代の持続的発展に向けた心身のヘルスケア・イノベーション

明和先生は、「次世代の持続的発展に向けた心身のヘルスケア・イノベーション」と題して、子どもの脳と心の発達に腸内細菌叢がいかに重要であるか、研究に基づくエビデンスを示しながら詳しく解説されました。

AIの「知能」、そしてヒトにしかない「知性」

日本社会は今、サイバーとフィジカルを融合させた人間中心の社会(Society 5.0)へと進化をとげようとしています。政府もSociety 5.0に向けた子どもたちの支援に力を入れています。そんな今だからこそ、人の学びや育ちについて、生物学的視点に立ち返ることが重要です。

次世代の子どもたちは、現在よりもさらにテクノロジーとともにある社会に生きるでしょう。すでにChatGPTに代表されるような生成系AIも日々進化しています。生成系AIの特徴は、多くのユーザーが「有益である」「重要である」とラベリングした情報を選択的に学習します。よって、学びに少数派の意見は組み込まれません。

一方、人は子宮内にいるときから身体感覚を駆使し、体験を通じて脳と心を育みます。体の動きと反応を使って「驚く」ことで学習するのです。そして何に驚くかは個体によって異なります。つまり、学びの対象は人によって違います。また、人は自分の「驚いた」体験を他者と共有したがる傾向があります。これは、霊長類の中のヒトに特徴的な傾向。人間は極めて社会的な動物だと言えるでしょう。

多数派が「有益」「重要」とする情報を画一的に学習するAIには“Intelligence”(知能)が備わっていますが、人のように個別的な身体性、好奇心、他者との共創から生まれる創造的な“Intellect”(知性)は備わっていません。

AIをはじめとするテクノロジーが加速度的に発展する社会に生きる世代だからこそ、次世代はより一層、人に特有の知性を育む必要があります。

知性のカギを握る「気づきネットワーク」は就学前に成熟

人らしさを支える「創造的知性」は、非認知スキルを伸ばすことで育まれます。この非認知スキルを脳科学の見地から説明してみましょう。

物事を考えたり行動を起こしたりするとき、脳の中では3種類のネットワークが働きます。1つ目の「集中ネットワーク」は、思考が“ON”になった状態で、収束的思考を司ります。収束的思考とは、意識化、言語化、推論、計画、実行に必要とされる思考です。AIの「知能」はまさに、このような収束的思考を得意としています。

2つ目は「“ぼー”っとネットワーク」です。発散的思考を司るネットワークで、「集中ネットワーク」が“ON”のときにつながっている電気信号が“OFF”になり、普段はつながっていない電気信号が出ます。そして身体や感情など身体内部に注意が向き、ひらめきがもたらされます。

3つ目は「気づきネットワーク」。「集中ネットワーク」と「“ぼー”っとネットワーク」の往還を促す働きをします。これによってネットワークの再編が起こり、創造的思考が生まれます。

収束的思考を得意とするAIが台頭している今だからこそ、「“ぼー”っとネットワーク」、そしてネットワークの再編を促す「気づきネットワーク」が、次世代の知性の土台となるのです。

子どもは、どろんこ遊びや土に触れる体験から自分の体を使いつつ、身体の内側に注意を向けます。こうして「“ぼー”っとネットワーク」が発達します。そして、「“ぼー”っとネットワーク」と共に知性を育むカギとなる「気づきネットワーク」は、就学期前に成熟を終えると言われています。

身体-脳-心は三位一体

ここで、体の健康と脳の発達の関係を見てみましょう。

知性のカギとなる「気づきネットワーク」は、視床下部・脳幹・脊髄といった自律神経に関わる重要な部分に影響を与えます。脳の一部である視床下部・脳幹・脊髄は、身体状態(ホメオスタシス)の制御を司る場所であり、内臓の感覚がインプットされる場所でもあります。

脳と身体の発達は相互に影響し合っており、「脳身関連」していると理解できます。サイキンソーの協力のもと行っている子どもの腸脳相関の研究でも、腸内細菌叢と脳の中枢神経系に密接な関連があることが分かってきています。

大人を対象とした研究からは、腸内細菌叢が免疫系の炎症、身体疾患(糖尿病など)、精神疾患(うつやストレス)と関連があることが判明しています。そして、意欲、感情制御、報酬系にも腸内細菌叢が深く関わっていることも分かってきました。ヘルスケアにおいては、身体-脳-心を三位一体で考えなくてはなりません。

それでは、腸脳相関にはどのような要因が影響するのでしょうか。

遺伝的・先天的な病気などは固定されているため、薬によるアプローチによらざるを得ません。しかしながら、それ以外の病気や不調を、薬に頼らずに予防するには、子どものころからの食生活習慣が大きく寄与します。

「子どものころから」が重要な理由は、腸内細菌叢の原型は幼児期までの環境や生活習慣によって決まるからです。

欧米のデータによると概ね「3歳まで」とされていましたが、日本の0歳から6歳まで約2500人のデータを3年ほどかけて調べたところ、概ね「5歳まで」に安定すると判明しました。このため、子どもたちの心身の健康を育むには、就学前までに腸内環境を整える支援が有効であると考えられます。

こども期の食習慣、生涯にわたる「心身の資本の土台」に

「感受性期」とは、環境の影響を受けて脳が顕著に変容しやすい限定された期間のことです。幼児期後期(就学前~児童期)は前頭前野が発達するため、腸-脳軸が発達する感受性期にあたります。

脳内の神経細胞は、生まれる前から生後数か月までの期間が最大で、その後、不必要なネットワークは除去されます。ネットワークの取捨選択はその子のおかれた環境下で生きるのに必要かどうかで決定されますから、その人の育つ環境によって脳の構造が変わってきます。これが脳発達の感受性期のメカニズムです。

ちなみに、視覚・聴覚野の感受性期は早くに訪れ、生後数カ月で成熟を迎えます。一方、「メンタライジング」を司る前頭前野の感受性期はそれより遅く、成熟を迎えるまで25年ほどかかると言われています。前頭前野の感受性期は大きく2期に分かれており、第1期が幼児期後期(4歳頃)、第2期が思春期です。体の成熟は14、5年で完了しますが、脳の成熟には25年かかります。

「メンタライジング」とは、表面には現れない心の状態を意識的にイメージすることです。例えば、「自分の視点をついたての向こうにいる人の視点に置き換えてイメージする」とか、「未来をイメージして『がまん』する」といったことが、メンタライジングの発達の初期段階に見られます。

前頭前野は4歳頃の幼児期後期に急激に発達し、「感情制御」と「認知制御」から成る「認知」の発達が急激に起こります。

これらのうち、腸内細菌叢との関連が見られるのが「感情制御」です。そしてこの就学前期は、腸内細菌叢が大きく変化する時期でもあります。よって、この時期の食生活が、我慢や行動制御といった「感情制御」に大きな影響をもたらします(詳しくは松永先生の講演パートを参照ください)。

欧米では、子ども期の自己制御能力と成人期の健康・経済状態との関連を示す研究が進んでいます。そして、疫学的に相関性があるというデータが示されています。

病気の未病化・予防化で日本に20年先んじているといわれる欧米では、医療費削減のために子ども期に予算が投じられます。生涯にわたる心身の資本の土台は、こども期(=脳発達の感受性期)に作られるからです。

「感動と歓び」に満ちあふれる次世代が育つ社会へ

私たちは、「産学連携による次世代の脳とこころの健康を支えるイノベーション」の取り組みとして、社会福祉法人長陽会に在籍する園児2,500人を対象にサイキンソーの提供する「乳幼児向け腸内フローラ検査」を実施し、データベースを構築しました。そして、園児の食習慣・腸内細菌叢、心身の発達リスク評価を追跡調査してきました。また、オーストラリアにある世界最先端の研究施設と協同で、ヘルスケア・イノベーションの国際拠点を日本にも設立しようと動いています。

日本には豊かな食文化があります。単なる「食育」ではなく、エビデンスベーストの「食育科学」によって、日本の食文化を活かしながら次世代の「身体・脳・心」の健康を支えていきたいものです。そして、「感動と歓び」にみちあふれる次世代が育つ社会を実現しましょう。

まとめ

本セミナーの前半では、明和先生より、次世代の持続的発展に向けて腸内細菌が子どもの脳と心の発達に重要であることを講演いただきました。特に幼少期の食生活が心身の健康に大きな影響を与えることから、AIが持つ知能と人間特有の創造的な知性の違いを踏まえて、豊かな食文化を活かした「食育科学」により「感動と歓び」に満ちた次世代を育む必要性をお話しいただきました。

後半では、明和先生のもとで研究に携わり、現在は大阪大学大学院医学系研究科 先進融合医学共同研究講座 日本学術振興会PD特別研究員として活躍される松永倫子先生による「親子の脳・心の育ちを支える腸内サイキンソーと食生活習慣」を講演いただきます。